長崎大学水産学部 第三期中期目標・中期計画における重点研究課題

近未来の海洋環境変動に対するトラフグを基軸とした海洋生態系機能の把握と活用

研究内容

①東シナ海生態系の構造と機能の解明

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トラフグを基軸とした生態系構造解明のイメージ図

トラフグは何を食べて、何に食べられているの?

トラフグは猛毒を持つことでその身を守る一方で、鳥のくちばしのような鋭い歯を持つ優れた捕食者でもあります。そのため、トラフグの動態は生態系下位の生物に対して多大な影響を及ぼす可能性があると考えています。
東シナ海はトラフグ最大の産地です。では、その東シナ海生態系の中でトラフグはどのような役割を果たしているのでしょうか?東シナ海生態系を構成する様々な生物を調査し、トラフグの捕食者や被食者を探索します。このようにして、トラフグを基軸に捉えた東シナ海生態系の食物網構造を明らかにするとともにそのモデル化に取り組み、生態系構造と機能の把握を目指します。

②トラフグの生活史・回遊・毒化機構解明

大回遊する天然のトラフグは、どのような生活を送っているの?

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電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いた耳石の微量元素分析による回遊履歴の推定

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鰭や耳石で放流由来かどうかを確認:放流時に鰭が切除されたまま成長したトラフグ(上)とALC染色が施された耳石(下)

これまで天然のトラフグについては数多くの研究が勢力的になされてきましたが、大回遊するトラフグの生活史研究は簡単なことではありません。それでもトラフグ資源の減少要因や毒獲得のメカニズム、効果的な人工種苗の添加法を解明するためには、天然のトラフグの生活史を詳細に把握することが重要です。
そこで、有明海や八代海生まれ(または放流由来の)のトラフグ東シナ海系群を主な対象とし、年齢・成長・成熟・産卵・食性や移動・回遊といった生活史の全容解明に挑みます。

体長数㎝のトラフグ人工種苗は、放流後どうなるの?

種苗放流由来のトラフグについても同様に、放流後の年齢・成長・成熟・産卵・食性や移動・回遊といった全生活史の解明に挑戦します。
毎年各県でトラフグの人工種苗が海に放流されています。その際、年度や県により様々な方法で標識が施されており、鰭や耳石を調べることで、どこでいつ放流されたものであるかについてもある程度確認することができます。

トラフグはどこでどのようにして毒を獲得するの?

私たちは自然環境下での毒化メカニズムを解き明かすことにも挑戦します。これらの結果に基づきトラフグ資源減少の要因を明らかにし、温暖化がトラフグの行動や生態、毒化に与える影響を予測することも重要な課題の一つです。

③生産技術高度化と有効活用技術確立

東シナ海周辺海域の海洋環境動態はトラフグにどのような影響を及ぼすの?

トラフグの生育適水温は28℃以下であることから、東シナ海周辺海域の水温上昇に伴い回遊経路東シナ海周辺海域の海洋環境動態の解析とモニタリングを行うとともに、近未来の海洋環境に適応したトラフグの生産・管理技術の高度化に向けてトラフグ種苗の行動や生理に及ぼす環境影響等の基盤データを収集します。

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フグ毒の高感度分析システム開発

温暖化が進むとトラフグは強毒化する?

将来、温暖化が進行すれば、増養殖環境も大きく変化することが予想されます。将来の温暖化による高毒化に備え、フグ毒の高感度分析システムの検討を含め、安全・安心な食料資源を提供するための基盤を確立します。

新規の生理活性物質の探索

 トラフグには有用な生理活性物質や機能性物質が多く含まれると考えらえることから、新規物質の探索を行います。トラフグの利用時には大きな肝臓など、廃棄部分も多くなります。そこで、このプロジェクトではそれらの部位も併せた有効活用についても考えます。

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トラフグは有用な生理活性物質や機能性物質を多く含む

④成果の普及と教育・研究への活用

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有明海産天然トラフグの剥製標本の展示

トラフグってどんな生物なの?トラフグはなぜ毒を持つの?

そうした様々な疑問にこたえ、研究プロジェクトで得られた成果を長崎大学はじめ種々の教育研究活動に利用するために、水産ミュージアム(水産学部の標本展示室)等を活用した成果の展示と広報活動を行います。また、研究成果を産業界から地元コミュニティにまでフィードバックするため、水産学部の地域再生人材養成プログラム「海洋サイバネティクスと長崎県の水産再生」等や社会人教育の教材として利用します。

⑤国際的なフィールド研究基盤の構築

国際水域でのフィールド研究はどのように進めていくの?

東シナ海を中心とした国際共同フィールド研究の推進を図るため、これまで学術交流協定や研究拠点形成が整備されてきた中国、韓国、台湾、ベトナム等のアジア各国の関係大学や研究機関等とのネットワークの枠組みを基に、それらの連携をさらに強化し、研究者交流、国際共同研究、研究者育成を推進します。また、東アジア地域における新たな共同研究シーズの開拓も視野に入れて進めていきます。